楽隊のうさぎ

中沢けい

ひょっとしたら作者はご自分のご子息が中学時代吹奏楽部にいて、自身がPTAとして吹奏楽部に関って来た苦労やエピソードなどを膨らませて小説にしたのではないか。それぐらい細かいディティールがリアルである。

私の場合、自分自身が中高と吹奏楽命だったし、私の長女も中高と吹奏楽部だったので、2重の意味で「うん、わかるわかる」な部分が多かったのである。

この中で、テューバの男の子が、期末試験期間中、自宅までハードケースのままえっちらおっちらテューバを持って行く場面があるが、よっぽど学校から自宅までが近いなら有り得るが、普通は有り得ないし、仮に近かったとして、自宅でテューバの音だしができる環境かというとまたまた疑問が強く残るのである。まあ、ここまで詳細な描写をする作者なのだから、おそらく事実に基づいた事なのであろうが、だとしたら偶然にも非常に恵まれた状況だったということなのだろう。

現役中高生の吹奏楽部員とその親兄弟、吹奏楽部顧問先生、かつて吹奏楽に「部活」で関わった事がある全ての人に贈りたいリアルメルヘン。吹奏楽のことを除いても「友情」「親子」「夫婦」のデリケートな部分を取り上げているので通常の小説としても読み応えのある、そして最後はほんわかとする名作となっている。

楽隊のうさぎ

楽隊のうさぎ