ヰタ・ムジカアリス(私の音楽事始)

小学6年生の時、高校生の叔父から1枚のLPレコードをもらった。
A面はカレル・アンチェル指揮ドヴォルザーク「新世界」、B面にはウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮シューベルト「未完成」が収録されたクラシック入門版。

もらったはいいが、再生する機械が無いので、LPレコードをかけるとはみ出てしまうポータブルプレイヤーを親から買ってもらった。



音楽というものはなりゆきで勝手に耳に飛び込んでくるものと思っていたが、自らが行動してわざわざ音楽を聴くという行為は初めてのことだった。
「未完成」は暗い雰囲気なのであまり好きになれなかったが、「新世界」は名前からしてなにか「明るい未来」という感じが嬉しく、ネイティブアメリカンの素朴な旋律がとても美しく感じられた。新しく出現した「刺激」は、もともと擦り切れていたレコードが更に擦り傷を深くし、ボロボロになるまで聴くという極端な行動をさせた。だから演奏したオーケストラ名は忘れたものの、指揮者の名前は今でも憶えているというわけだ。

そしてそれだけならそこで完結する話なのだが、同じクラスにやはりクラシックレコードを聴きまくっている「古舘高弘」なる男がおり、私は1枚だけだがそいつの家には百枚単位のLPがあるという。そこから古舘家通いが始まった。彼の父親が無類のクラシック愛好家で、大型のステレオシステムが鎮座しており、ドイツグラモフォン社から定期的にLPのボックスセットを購入しているという本格派だったので、当時おそらく最も勢いのある頃のカラヤンベルリンフィルのベートベンの交響曲などを2人で聴きまくった。


学校の授業内容は暗記できなくても、指揮者とオケの組み合わせは不思議とすぐ覚えた。

カラヤンベルリンフィル
トスカニーニとNBC交響楽団
バーンスタインとニューヨークフィル
セルとクリーブランド
アンセルメとスイスロマンド
オーマンディフィラデルフィア
ベームウィーンフィル などなどである


指揮者による違いやオケの音色の違いなどわかるわけもなく、ただ念仏のように唱えて喜んでいたのだから罪が無い。そして小学校卒業後は彼は仙台市へ私は3ヵ月後には釜石市へとバラバラになり音信普通だったのだが、彼も中学校では吹奏楽部に入り、テューバをやっていたということが後にわかり、その奇遇さに驚いたものである。

とまあ、こんな感じで私のヰタ・ムジカアリスは始まってしまったのである。