真空管のぬくもり

スピーカーは「タンノイ」の超大型、プリアンプ・パワーアンプは「ラックス」の真空管自作キット、ターンテーブルも「ラックス」の自作キット、カートリッジはオルトフォンのMM。
職場の独身寮にいたころ、クラシック音楽好きの先輩の部屋に入り浸っていた。

その先輩は楽器の演奏ができるわけでもなく楽譜も読めない人だったが音には非常にうるさく、私が「テューバを演奏する」と言ったら「そんな君なら違いがわかるだろう?」と真空管アンプが暖まる前と後の「音のぬくもりのちがい」や同じ録音のLPで輸入盤と国内盤の「ちがい」などを聴き比べたりして、その魅力について説明を受けたりしたのだが、当時はよく理解できなかった。

先輩は生の音の再現を追求してやまなかったし、私は無意識に「生の音を思い出しあるいは想像して補正」しながら聴いていたらしく、多少再現音が悪くても気にしないズボラな耳だった。

しかしそうは言っても先輩の所有する膨大な数のLPレコード(ヴェルディワーグナーのオペラが特に充実)を聴かせてもらうことで多くのことを学んだし、現在のCD、MD、DVDなどの再生した音から考えれば、先輩のオーディオシステムの音にはオペラのアリアにしろポピュラーボーカルにしろ「暖かな人の温もり」がそこはかとなく伝わっていたと思う。